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皮膚免疫(恒常性の解明)プロジェクト

研究目的

 皮膚は生体最前線のバリアで、外界の刺激から生体を守っています。皮膚では外来抗原や皮表の細菌巣との様々なせめぎ合いが起きていることが予想されますが、皮膚の免疫システムがどのように制御されているのかは多くのところ不明です。ワクチンのほとんどは経皮的に接種されていることから、経皮免疫機構の解明は健康維持のために非常に大きな意義を持ちます。私たちはこの皮膚免疫の恒常性がどのように保たれているのか、経皮免疫がどのような機序で成立しているのかを解明することを目指しています。

研究概要

1. 樹状細胞の起源と機能

 ランゲルハンス細胞が生体内で担う機能は長い間証明されていませんでした。我々は幾つかの研究を経てランゲルハンス細胞は表皮タイトジャンクションバリアを貫いて樹状突起を伸ばし、角層を通過してきた細菌由来抗原を獲得し、抗原特異的液性免疫(主としてIgG1)を誘導することを明らかにしました。このランゲルハンス細胞が誘導した抗体は細菌毒素に対する中和活性を持ち、実験的ブドウ球菌性熱傷様皮膚剥脱症候群(SSSS)では全身投与された毒素を中和し、発症を予防することが解りました。この免疫応答はあくまでも病原菌や毒素が生体に侵入する前のプロセスであり、ランゲルハンス細胞は病原性を発揮しうるものに対して先制防御的に抗体産生を誘導していると言えます。
 このように、ランゲルハンス細胞は生体防御に重要な免疫細胞であることが確立されました。一方、ランゲルハンス細胞は主として免疫寛容に働くのではないかという推測も多くなされていますが、確固たる証拠が乏しい状況です。ランゲルハンス細胞は状況と抗原に応じて違う対応を行うのではないかと私たちは考えています。これを明らかにするために、慶應皮膚科のお家芸である天疱瘡抗原(デスモグレイン3、Dsg3)を中心とするシステムを駆使し解析を行っています。
 皮膚免疫は全身免疫と交通しています。私たちは皮膚樹状細胞の研究を行ううちに、脾臓の樹状細胞にも興味を持つようになりました。ランゲルハンス細胞と同じマーカーで、c-type lectinであるランゲリンを発現する脾臓樹状細胞が存在し、その発生メカニズムを明らかにしようと試みております。

2. 毛嚢免疫

 毛嚢は哺乳類を定義する構造の一つであり、動物が野生にて生存する必須のバリアを形成しています。紫外線、温度変化、物理的刺激から生体を守ります。円形脱毛症や膠原病など、毛嚢を標的とする炎症性疾患が昔から知られていますが、毛嚢に生理的な免疫機能があるかはあまり注目されていませんでした。私たちは毛嚢が外的ストレスに応答してケモカインという物質を産生し、ストレスを受けた部位に樹状細胞を動員することを見出しました。また、表皮樹状細胞であるランゲルハンス細胞は毛嚢をゲートウェイとして表皮内に移動していることを明らかにしました。毛嚢はいくつかの解剖学的部位に分けられていますが、より皮表に近い漏斗部と峡部では白血球を強く動員するケモカインを発現していましたが、幹細胞を育む隆起部ではランゲルハンス細胞の動員を抑制するケモカインを産生しており、幹細胞を白血球の過剰な流入から守っていることが推測されます。
 このように、毛嚢はダイナミックに皮膚樹状細胞の交通整理を行っています。私たちは毛嚢が皮膚免疫恒常性を司る中心的な構造であると考えており、現在T細胞とのクロストークを解明しようと試みています。

3. アトピー性皮膚炎と皮膚細菌巣

 現在アトピー性皮膚炎は角層バリア破綻による生体へのアレルゲン暴露および、それに伴うアレルギー性の皮膚炎であると理解されています。近年角層構成蛋白であるフィラグリンの異常がアトピー性皮膚炎の遺伝的素因であることが報告され、経皮的なアレルゲン暴露がアトピー性皮膚炎病態論の中心に位置しています。
 一方、40年も前からアトピー性皮膚炎患者の皮表には黄色ブドウ球菌がコロナイズしていることが報告されていましたが、その意義は未だ解明されていません。上に記したバリア破綻→経皮感作→皮膚炎発症というアレルギー性皮膚炎の理論に細菌の役割を組み込むことは長らく困難だった訳です。
 近年メタゲノミック解析(microbiome)の進歩から、皮膚には腸管を越える細菌叢が存在していることが解ってきました。興味深いことに、アトピー性皮膚炎の悪化時には必ず細菌叢に偏りを来しており、その多くが黄色ブドウ球菌に置き換わってしまうことが報告されています。やはり黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎患者における皮膚炎と密接な関係を持っていることが考えられます。私たちはアトピー性皮膚炎の病態を非常に反映したモデルマウスを作成し、皮膚細菌叢と皮膚炎の関係を明らかにしようと試みています。