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毛髪保存・再生プロジェクト

研究目的

 毛髪疾患、特に臨床的に問題となる脱毛症の病態解明、治療法開発を目指すプロジェクトである。脱毛症の病態は、

  1. 炎症、感染症、外傷などにより毛包の構造が破壊される
  2. 毛周期(毛の生えかわり)に異常が生じ毛幹(毛髪)が毛包から脱落する

の大きく二つに分けられる。
当研究グループでは、円形脱毛症モデルマウスを用いた新規治療法の開発、ヒト由来細胞(特に毛包幹細胞、iPS細胞)を用いた

  1. 毛包再生の実現
  2. 成長因子やシグナル伝達物質を用いた毛包周囲微細環境の調節による毛包成長のサポート、毛周期の制御

などをメインテーマとし研究を進めている。

対象疾患

 円形脱毛症、瘢痕性脱毛症、男性型脱毛症、女性型脱毛症、休止期脱毛、膠原病、代謝性疾患に伴う脱毛症、その他。

研究概要

1. ヒト毛包幹細胞の同定と分離法の開発

 毛包の幹細胞は立毛筋の付着部であるバルジ存在することがマウスでは知られていた。ヒト頭皮をヌードマウスに移植し、細胞分裂時に核をラベルする方法で細胞周期が遅い幹細胞がヒト毛包においてもバルジに存在することを明らかにし、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法にて同定された幹細胞を豊富に含んだヒトバルジ細胞を選択的に採取した。次いでバルジ細胞とバルジ以外の毛包細胞をマイクロアレイを用いて網羅的に遺伝解析、比較し、バルジ細胞の細胞表面マーカーを同定、それを用いてはじめてヒトバルジ細胞を生きた状態で分離、培養することに成功。幹細胞を用いたヒト毛包再生に技術的基盤を確立させた。

Ohyama M, et al. J Clin Invest 2006

2. 円形脱毛症に対する抗アレルギー剤の有用性の検討

 円形脱毛症がアトピー性疾患に合併する確立は高い。また、円形脱毛症における毛包周囲性の炎症には、アレルギー性疾患で重要な役割をはたす好酸球や肥満細胞が存在することが知られている。臨床的にも難治性の合併症例において抗アレルギー剤の導入により脱毛症状が軽快することが知られている。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも円形脱毛症に対する抗アレルギー剤の有用性が説明されてはいるが、エビデンスレベルは高くない。そこで、円形脱毛症モデルマウスを用いて本症に対する抗アレルギー剤の有用性を科学的に検証した。興味深いことに、抗アレルギー剤投与群でのみ脱毛症状の改善がみられ、改善した脱毛部では脱顆粒した肥満細胞の数が低下するなどの所見が得られた。これらの結果は、円形脱毛症に対して抗アレルギー剤が有用であることを示唆している。(本研究の一部は大日本住友製薬からの研究助成金による)

Ohyama et al. J Dermatol Sci 2010

3. ヒト毛乳頭細胞の特性を維持・回復する培養条件の開発

 毛乳頭は毛包の下端に位置する毛包発生や毛周期の制御に関わる重要な間葉系細胞からなる構造体である。毛髪が伸長するのは毛乳頭からのシグナルを受けて毛母細胞が分裂することによる。従って、ヒト毛包の再生には毛乳頭細胞を大量に準備することが必要であるが、ヒトから採取可能な量には限りがあり、かつ、培養すると特性を失うという問題があった。我々はヒト毛包から分離した直後の毛乳頭と培養操作にて特性を失った毛乳頭細胞の遺伝子発現を比較し、特性を失った細胞で低下しているシグナル伝達経路に注目、そのシグナル経路を活性化する物質からなるカクテルを培養液に加えることでヒト毛乳頭細胞の特性を回復することに成功した。特性を回復した細胞から塊をつくりマウスの無毛部皮下に移植したところ毛包様構造が確認され、毛を誘導する能力が回復したことが確認された。

Ohyama et al. J Cell Sci 2012

図

図 ヒト毛包から分離した直後の毛乳頭と特性を回復した細胞を用いて実験的に再生したヒト毛乳頭
慶應病院KOMPAS 慶應発サイエンスより転載)

4.ヒトiPS細胞を用いた毛包再生の試み

 iPS細胞は理論的には無限の増殖能をもち、いかなる細胞にも分化する能力を秘めている。ヒトiPS細胞を用いて毛包を再生する技術が確立することができれば患者由来の細胞を用いて大量の毛包を再生することも夢ではなくなる。我々はヒトiPS細胞をレチノイン酸、BMP4を用いて上皮系前駆細胞に分化誘導し、それを毛乳頭細胞と同様の特性をもつマウスの幼若線維芽細胞と混合しヌードマウス皮下に移植した。すると毛包構造が再現され、その構造にはヒト由来の細胞であることを示すシグナルが検出できた。つまり、ヒトiPS細胞が少なくとも毛包の一部を再現する能力を有することが明らかとなった。今後は毛乳頭などその他の毛包構成要素についてもiPS細胞からの誘導を試みる予定である。

Veratich et al. J Invest Dermatol 2013

図

図 ヒトiPS細胞を用いた毛包上皮再生の試み ヒトiPS細胞から毛包の本体を構成するケラチノサイトの前駆細胞を誘導した。次いでマウスの幼若線維芽細胞とヌードマウスに共移植し毛包構造を得た。
慶應病院KOMPAS 慶應発サイエンスより転載)