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アトピー性皮膚炎克服プロジェクト

研究目的

 アトピー性皮膚炎は人口の10%以上が発症し、社会的問題となっている慢性の皮膚疾患です。その臨床症状、経過は非常に多彩であり、遺伝的、免疫学的、環境的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。私たちは、基礎研究、臨床研究の両面からアトピー性皮膚炎の複雑な病態を解明し、治療法の開発、アトピー性皮膚炎の克服をめざしています。

研究概要

1. 角層バリア機能異常に基づくアトピー疾患発症機序の解明

 2006年、スコットランドのグループにより、皮膚角層の主要な構成タンパク質であるフィラグリンの機能喪失変異が、アトピー性皮膚炎の主要な発症因子として報告された(Palmer, et al. Nat Genet 2006)。その後フィラグリン遺伝子変異は、アトピー性皮膚炎を有する気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー等のアレルギー疾患の発症にも関連することが示された(McAleer, et al. J Allergy Clin Immunol 2013)。
 私たちは、フィラグリンを遺伝的に完全に欠損するマウスを世界に先駆けて作成し(Kawasaki,et al. J Allergy Clin Immunol 2012)、フィラグリンの機能喪失に関連する角層バリア機能異常の詳細やそれにより生じるアトピー疾患発症過程の解明をめざした研究を行っている。現在は、フィラグリン欠損という角層バリア機能異常に加え、抗原感作という免疫アレルギー的要因、環境要因を絡めた、実際の臨床に則した疾患発症過程を再現するモデルを考案し、病態の解明のみならず、新しい治療や予防法の開発にもつながるような研究をめざしている。

2. アトピー性皮膚炎患者における皮膚細菌叢の網羅的解析

 アトピー性皮膚炎では、黄色ブドウ球菌の皮膚への定着、感染が、以前より数多く報告されている。これまで微生物群のアトピー性皮膚炎の病態への関与は不明瞭だったが、近年のDNAシークエンス技術の発展により皮膚細菌叢の網羅的解析が可能となり (Grice, et al. Science, 2009)、疾患の関わりが明らかになりつつある(Kong, et al. Genome Res, 2012)。
 私たちは、アトピー性皮膚炎患者の皮膚細菌叢を網羅的に解析し、細菌群の疾患病態への関与を検証する。得られた知見は私たちが保持する各種マウスモデルとリンクさせることで、より詳細な病態理解につながると予想される。また本研究に関連して、欧米で汎用されているBleach治療(Huang, et al. Pediatrics 2009)の国内への導入や特定の病原菌をターゲットにした新規治療法の開発もめざしていく予定である。

3. 皮膚表面構造のコンピュータ画像解析に基づく皮膚バリア機能評価法開発の試み

 我々の皮膚の表面は、多数の細かい皮溝と呼ばれる溝が刻まれている。皮膚はさらに、後天的にしわが刻まれ、病態に応じて膨化や萎縮を認めたり、表面に鱗屑や痂皮が付着したりといった様々な形状変化を認める。私たちは、ヒト皮膚の表面構造を詳細に観察し、皮溝の走行や皮野の形状などに個人特有のパターンがあることを観察した。そしてコンピュータ解析技術を用いることで、個々の特徴を抽出し、その特徴に応じたクラスター分析ができる可能性を見出した。また、上述のフィラグリンを含めた種々の皮膚構成物質の組成、皮膚の水分変化、炎症等が皮膚表面のどういった構造変化をもたらすのかをコンピュータ画像解析することを試みている。本研究を通じて、各分子異常や病態がどういった皮膚表面構造変化をもたらすのかを把握することができれば、コンピュータを用いたシステム医学的手法により、皮膚表面の画像情報を元にした皮膚バリア機能評価法や診療アルゴリズムを開発できる可能性がある。

4. アトピー性皮膚炎原因遺伝子の同定・解析

 アトピー性皮膚炎の発症には、フィラグリンに代表される遺伝的要因が関係している。私たちはこれまでに、当科アトピー性皮膚炎外来受診患者約250人に関して、国内で報告されている8種類のフィラグリン機能喪失変異の有無を確認する解析系を確立し、変異の有無と臨床的特徴に関する解析を行っている(現在論文準備中)。また、現在、臨床的に類似の特徴を有する患者を抽出し、その皮膚バリア関連200遺伝子を網羅的に解読することで、新たなアトピー性皮膚炎原因遺伝子の同定をめざしている。

5. アトピー性皮膚炎患者教育システムの確立

 アトピー性皮膚炎では、日常的なスキンケア、外用剤塗布、生活環境の整備等、患者自身による治療マネージメントが症状の安定のために欠かせない。また、アトピー性皮膚炎は、患者個々で症状の経過や生活環境、悪化する原因が大きく異なるため、患者ひとりひとりが病気を正しく理解し、それぞれに合った治療や生活スタイルを実践するよう指導することが重要となる。私たちは、過去にアトピー診療における患者教育の重要性を発表した(第62回日本アレルギー学会秋期学術大会(2012)にて報告.現在論文準備中)。今後は、良好な患者-医師関係を構築し、治療効果の高い患者教育システムの確立をめざしていく。これまでにアトピー教室(病気の考え方や治療法の実際、日常生活上の留意点など、アトピー性皮膚炎に関する一般的な知識を身につけていただく)、アトピーセミナー(アトピー性皮膚炎に関する最新の知見や治療法の紹介、当科アトピー性皮膚炎外来の治療成績や研究内容の患者へのフィードバックの場)、アトピー患者教育用テキスト(最新のEBMに基づく内容に現在リニューアル中)、アトピー個別指導外来など、患者教育用コンテンツの充実を図り、一定の成果をあげている。